ステロイド軟膏に対する抵抗感
投稿日:2017/03/20

アトピー性皮膚炎の治療としてステロイド軟膏の塗布が標準治療として、現在ガイドラインでも推奨されています。しかし、ステロイドに対する不安からステロイド軟膏が使用できない方がいらっしゃるのも事実です。この問題はとても根深く難しいので、私のようなアトピー性皮膚炎の治療歴の浅い者が話すのは難しいですが、質問がありましたので、答えさせていただきます。

アトピー性皮膚炎は①皮膚のバリア機能低下②アレルギーの起こりやすい体質→炎症が起こりやすい、が病気の形成に関与していいます。

皮膚のバリア機能が低下していると様々な環境中の刺激物質により皮膚に炎症が引き起こされます。炎症により痒みが生じ、皮膚を掻いてしまう。掻くことでさらに皮膚のバリア機能が低下し、環境中の刺激物質に反応しやすくなるのです。また、掻くこと自体が炎症を悪化させます。こうして悪循環のサイクルに入り込んでしまう。この悪循環を断ち切るためには、①皮膚のバリア機能を補修する、②炎症を沈静化する が2大柱です。炎症を沈静化させる代表の薬剤がステロイド軟膏になります。ステロイドを塗ること自体ではなく、炎症を沈静化させることが治療目標です。ステロイドはその炎症を沈静化させる力があるので、私達は治療に用います。

軟膏のステロイドは、体内で産生されるステロイドホルモンを人工的に合成したものです。そう、元来私達の身体の中で分泌されいるホルモンの1つです。症状の程度に併せて使用できるよう、5つの強さの種類があります。

ステロイドに対する抵抗感を生じる原因の1つは副作用です。全身性と塗った場所のみの局所性の副作用があります。全身の副作用は、“血糖値が高くなる”、“胃粘膜の障害”、“血圧を高くする”、“骨粗鬆になりやすくなる”、“感染しやすくなる”など、どれも怖くなるような副作用があります。しかし、これはステロイドを点滴したり、内服したりしたときの副作用です。軟膏や喘息の治療薬のステロイド吸入薬はほとんど全身に入っていくことはなく、全身の副作用はほとんど起こりません。逆にそうだからこそ、内服よりも面倒な軟膏塗布や吸入が治療薬として選ばれるのです。効果はそのままに副作用を少なくです。確かに大量のステロイド軟膏を塗り続ければ、全身性の副作用を起こす可能性はあります。個人差はありますが、その量は1日にステロイド軟膏4本(=20g)を毎日全身に3ヶ月程度塗布したときです。毎日全身ベトベトにステロイド軟膏を数ヶ月塗り続けないといけないくらい重症のアトピー性皮膚炎であれば、全身の副作用が出現していないか検査が必要ですし、免疫抑制剤の内服など1歩治療ランクをアップすることを検討しないといけないでしょう。

長期間塗った場所に関する局所性の副作用としては“うぶ毛が生える”、“ニキビができやすい”、“毛細血管が目立つ”、“皮膚が薄くなる”、“皮膚に線ができる”などがあります。これはあくまで長期に連日塗ったときです。“皮膚に線ができる”以外はステロイド軟膏の塗布量が減ると回復傾向となります。やっぱり副作用はあり得るではないかと思われるかもしれません。だからこそ医師の元、正しい塗り方をしないといけません。

炎症が持続すると、その身体の部位は構造変化を起こします。皮膚でしたら、厚くなりゴワゴワして、黒くなります。喘息だと気管支が硬くなり肺機能が低下します。アレルギー炎症の持続はその場の構造を変えてしまうのです。下記のイラストは気管支の断面図です。喘息児では壁が厚くなって空気の通り道が狭くなっています。この変化は改善しないと考えられています。

また、アレルギーの炎症は連鎖して他のアレルギーを起こします。乳幼児期のアトピー性皮膚炎だと食物アレルギーを引き起こしてきます。喘息の発症も多くなります。アレルギー性鼻炎があると喘息のコントロールが難しくなります。小児喘息が治らず、成人喘息に移行するのも日頃の炎症の沈静化ができていない方が多いです。

ステロイドを塗る塗らないというよりはその皮膚の炎症をどう沈静化するかを考えないといけません。炎症も最初のうちであれば薬剤も少なくで済みますが、時間が経った勢いのある炎症にはそれなりの量のステロイドが必要です。喘息の発作時には軟膏や吸入の比にならないくらいの大量のステロイドでまずは勢いのついた炎症を沈めにかかります。花粉症の場合も症状が出てから、治療をしても十分に症状が抑えられないと、次のシーズンからは症状が出る前の花粉が飛び始めたときから薬剤の使用を開始します。まだ炎症が起こり始めの小さなときから治療を開始すると、薬剤の量も少なくて済むし、症状も軽くなります。

具体的には痒みがあり赤くなっている状態をステロイド軟膏の塗布で速やかに沈静化します。数日で赤みは改善しますが、目に見えない炎症がまだくすぶっていますので、そこで軟膏を塗るのを中止するとすぐにぶり返します。また湿疹と湿疹の間の一見正常に見える皮膚にも炎症がありますので、湿疹間にも塗布します。赤みがひいて+1週間塗布し、それから減量に入ります。まずは1日2回を1回に、それから徐々に減らしていき、その方に必要な回数を見つけていきます。週2回や週3回の方もいれば、保湿剤だけでもコントロールできることもあります。もちろん、皮膚のバリア機能は弱いので、保湿剤の1日2回の塗布は継続しないといけません。これができていないと外部からの刺激により炎症をすぐ引き起こします。また、最初に十分量のステロイド軟膏を使用し、炎症を速やかに沈静化することが大事です。副作用が怖いからと少しの量を擦り込むようにすると結局は炎症が長引いて悪循環のサイクルを断てないですし、ダラダラと長期に渡ってステロイド軟膏を塗布することとなります。喘息の治療も症状がない状態が数ヶ月続いて、検査をして気道炎症がないなど確認した上で薬剤の減量を1つずつしていきます。

呼吸器内科医として喘息の治療をしていたときにはステロイドに対する拒否感がある方はあまりいらっしゃいませんでした。心配して質問されることはありましたが、短期間のステロイド投与により得られる効果と心配される副作用を説明すると、治療を受けていただいていました。喘息の治療のステロイド量が桁違いに多いですが、それでもやはり見た目の副作用があるアトピー性皮膚炎ではステロイドに対する不安や批判から使用できない方がいらっしゃる印象です。

患者様が受け入れられない治療を押し付けるのはよくないのは明らかだと思います。ただ炎症が持続することの弊害は共有すべきだと思います。世界的にもステロイド軟膏塗布が標準治療ですが、相談の上、ステロイド以外の治療を患者さんが強く希望した場合、それを尊重すること、ただ、ある程度の効果判定の期限は設けることが必要ではないかと思います。

歴史がある問題であり、難しいですが、今の私の考えになります。また、勉強して有用な情報がありましたら、アップしたいと思います。

 

 

 

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ステロイド軟膏に対する抵抗感

投稿日:2017/03/20

アトピー性皮膚炎の治療としてステロイド軟膏の塗布が標準治療として、現在ガイドラインでも推奨されています。しかし、ステロイドに対する不安からステロイド軟膏が使用できない方がいらっしゃるのも事実です。この問題はとても根深く難しいので、私のようなアトピー性皮膚炎の治療歴の浅い者が話すのは難しいですが、質問がありましたので、答えさせていただきます。

アトピー性皮膚炎は①皮膚のバリア機能低下②アレルギーの起こりやすい体質→炎症が起こりやすい、が病気の形成に関与していいます。

皮膚のバリア機能が低下していると様々な環境中の刺激物質により皮膚に炎症が引き起こされます。炎症により痒みが生じ、皮膚を掻いてしまう。掻くことでさらに皮膚のバリア機能が低下し、環境中の刺激物質に反応しやすくなるのです。また、掻くこと自体が炎症を悪化させます。こうして悪循環のサイクルに入り込んでしまう。この悪循環を断ち切るためには、①皮膚のバリア機能を補修する、②炎症を沈静化する が2大柱です。炎症を沈静化させる代表の薬剤がステロイド軟膏になります。ステロイドを塗ること自体ではなく、炎症を沈静化させることが治療目標です。ステロイドはその炎症を沈静化させる力があるので、私達は治療に用います。

軟膏のステロイドは、体内で産生されるステロイドホルモンを人工的に合成したものです。そう、元来私達の身体の中で分泌されいるホルモンの1つです。症状の程度に併せて使用できるよう、5つの強さの種類があります。

ステロイドに対する抵抗感を生じる原因の1つは副作用です。全身性と塗った場所のみの局所性の副作用があります。全身の副作用は、“血糖値が高くなる”、“胃粘膜の障害”、“血圧を高くする”、“骨粗鬆になりやすくなる”、“感染しやすくなる”など、どれも怖くなるような副作用があります。しかし、これはステロイドを点滴したり、内服したりしたときの副作用です。軟膏や喘息の治療薬のステロイド吸入薬はほとんど全身に入っていくことはなく、全身の副作用はほとんど起こりません。逆にそうだからこそ、内服よりも面倒な軟膏塗布や吸入が治療薬として選ばれるのです。効果はそのままに副作用を少なくです。確かに大量のステロイド軟膏を塗り続ければ、全身性の副作用を起こす可能性はあります。個人差はありますが、その量は1日にステロイド軟膏4本(=20g)を毎日全身に3ヶ月程度塗布したときです。毎日全身ベトベトにステロイド軟膏を数ヶ月塗り続けないといけないくらい重症のアトピー性皮膚炎であれば、全身の副作用が出現していないか検査が必要ですし、免疫抑制剤の内服など1歩治療ランクをアップすることを検討しないといけないでしょう。

長期間塗った場所に関する局所性の副作用としては“うぶ毛が生える”、“ニキビができやすい”、“毛細血管が目立つ”、“皮膚が薄くなる”、“皮膚に線ができる”などがあります。これはあくまで長期に連日塗ったときです。“皮膚に線ができる”以外はステロイド軟膏の塗布量が減ると回復傾向となります。やっぱり副作用はあり得るではないかと思われるかもしれません。だからこそ医師の元、正しい塗り方をしないといけません。

炎症が持続すると、その身体の部位は構造変化を起こします。皮膚でしたら、厚くなりゴワゴワして、黒くなります。喘息だと気管支が硬くなり肺機能が低下します。アレルギー炎症の持続はその場の構造を変えてしまうのです。下記のイラストは気管支の断面図です。喘息児では壁が厚くなって空気の通り道が狭くなっています。この変化は改善しないと考えられています。

また、アレルギーの炎症は連鎖して他のアレルギーを起こします。乳幼児期のアトピー性皮膚炎だと食物アレルギーを引き起こしてきます。喘息の発症も多くなります。アレルギー性鼻炎があると喘息のコントロールが難しくなります。小児喘息が治らず、成人喘息に移行するのも日頃の炎症の沈静化ができていない方が多いです。

ステロイドを塗る塗らないというよりはその皮膚の炎症をどう沈静化するかを考えないといけません。炎症も最初のうちであれば薬剤も少なくで済みますが、時間が経った勢いのある炎症にはそれなりの量のステロイドが必要です。喘息の発作時には軟膏や吸入の比にならないくらいの大量のステロイドでまずは勢いのついた炎症を沈めにかかります。花粉症の場合も症状が出てから、治療をしても十分に症状が抑えられないと、次のシーズンからは症状が出る前の花粉が飛び始めたときから薬剤の使用を開始します。まだ炎症が起こり始めの小さなときから治療を開始すると、薬剤の量も少なくて済むし、症状も軽くなります。

具体的には痒みがあり赤くなっている状態をステロイド軟膏の塗布で速やかに沈静化します。数日で赤みは改善しますが、目に見えない炎症がまだくすぶっていますので、そこで軟膏を塗るのを中止するとすぐにぶり返します。また湿疹と湿疹の間の一見正常に見える皮膚にも炎症がありますので、湿疹間にも塗布します。赤みがひいて+1週間塗布し、それから減量に入ります。まずは1日2回を1回に、それから徐々に減らしていき、その方に必要な回数を見つけていきます。週2回や週3回の方もいれば、保湿剤だけでもコントロールできることもあります。もちろん、皮膚のバリア機能は弱いので、保湿剤の1日2回の塗布は継続しないといけません。これができていないと外部からの刺激により炎症をすぐ引き起こします。また、最初に十分量のステロイド軟膏を使用し、炎症を速やかに沈静化することが大事です。副作用が怖いからと少しの量を擦り込むようにすると結局は炎症が長引いて悪循環のサイクルを断てないですし、ダラダラと長期に渡ってステロイド軟膏を塗布することとなります。喘息の治療も症状がない状態が数ヶ月続いて、検査をして気道炎症がないなど確認した上で薬剤の減量を1つずつしていきます。

呼吸器内科医として喘息の治療をしていたときにはステロイドに対する拒否感がある方はあまりいらっしゃいませんでした。心配して質問されることはありましたが、短期間のステロイド投与により得られる効果と心配される副作用を説明すると、治療を受けていただいていました。喘息の治療のステロイド量が桁違いに多いですが、それでもやはり見た目の副作用があるアトピー性皮膚炎ではステロイドに対する不安や批判から使用できない方がいらっしゃる印象です。

患者様が受け入れられない治療を押し付けるのはよくないのは明らかだと思います。ただ炎症が持続することの弊害は共有すべきだと思います。世界的にもステロイド軟膏塗布が標準治療ですが、相談の上、ステロイド以外の治療を患者さんが強く希望した場合、それを尊重すること、ただ、ある程度の効果判定の期限は設けることが必要ではないかと思います。

歴史がある問題であり、難しいですが、今の私の考えになります。また、勉強して有用な情報がありましたら、アップしたいと思います。

 

 

 

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