「令和3年度 食物アレルギーに関連する食品表示に関する調査研究事業 報告書」によると、卵は食物アレルギーの原因食材として、0〜2歳では第1位ですが、3〜17歳では第3位となり、18歳以上では第5位までには含まれていません。卵アレルギーの原因となるのは、ほとんどが卵白中のタンパク質です。その中でも最もアレルギーを起こしやすいタンパク質がオボムコイドです。具体的な名前を挙げたのは、オボムコイドは血液検査で測定でき、オボムコイドが高値になるほど、症状が起こる可能性が高くなります。卵黄摂取でアレルギー症状が出現しても、ほとんどは卵黄に混入した卵白成分が原因と考えられます。ウズラやアヒルなど他の鳥類の卵にも反応する可能性はありますが、魚卵には反応しません。
症状としては他の食品に比較して、腹痛、嘔吐、下痢などの消化器症状が多い傾向があります。
成長とともに治りやすい食材で、3歳までに約30%、6歳までに約70%のお子様は症状がでなくなります。治りにくくする要因としては「アナフィラキシーの既往」、「他のアレルギー疾患の合併」、「抗体の値が高いまま推移」が挙げられています。逆にオボムコイドに対する抗体の低下は食べることができるようになってきている可能性を示唆します。
検査に関しては、もちろん、卵白・卵黄、オボムコイドに対する抗体を測定し、参考にします。抗体が高い場合は少量からの負荷試験を考慮します。卵アレルギーが治りやすいのは「微量でも摂取継続できていること」、「オボムコイドに対する抗体が低下してきていること」です。ですから、負荷試験を行い、少しずつ食べることができる量を増やして行くのが大切です。
下記は当院の負荷試験での食べる卵の量です。強い症状が出る可能性が高い場合は3回に分けて、症状が出ないことが予測できている時は1回で、目標量を摂取します。全卵1/20個分から開始し、2時間後まで院内で経過を観察し、症状が出現しないか確認します。
各ステップをクリアするごとに下記のような加工品も自宅で摂取できます。クリアしたステップの量以下の卵を含有する加工品です。次のステップの負荷試験まで継続した摂取を行う一助になるようにです。
ガイドラインにも記載されている「食べられる範囲で食べていく」です。きちんと細やかな指導をして定期的に食べれる量を食べ、少しずつ食べれる量を増やしていった群はそうでない群より1年後に食べることができる卵の量が多かったというのが下の報告です。
卵の抗原性(アレルギーを引き起こす力)は調理法で変化します。加熱の条件では固ゆで卵でも12分の加熱では11.8%、20分の加熱では6.1%に生卵と比較した場合のオボムコイドの抗原性(アレルギーを起こす力)は低下します。加熱時間の短い炒り卵ではオボムコイドの抗原性はほとんど低下しません。また、加熱に加えて、小麦が加わることで更なる抗原性の低下があります。クッキーやカステラ、パンなどでは実際に使われている卵の量より抗原性は低下しています。しかし、実際どれくらいなのかと具体的な話はできません。ですから、卵の抗原性の話は難しいです。
特に卵アレルギーの診療では以下の3点に困難を感じていました。
・1/20個分の卵の負荷試験で陽性になってしまう小学生、食パンを食べることはできるが、もう定期的に食べることに飽きてしまう
・1/20個分の卵の負荷試験が陰性でも、他の兄弟の育児や仕事があり、1/20個分相当の卵を日常生活に食べることが負担になり、継続できない
・1/20個分の卵の負荷試験でもアナフィラキシーとなり、待つしかなかった赤ちゃん
それがミルステップという全卵の微量の粉末が販売されたことにより、アプローチ方法が増えました。
ミルステップ1:全卵1/500個分、ミルステップ2:全卵1/250個分、ミルステップ3:全卵1/50個分 に相当
ミルステップ1と2は粉ミルクのような風味があり、食べやすいです。
微量の負荷試験が加わったことにより、卵を定期的に食べる機会を増やし、卵アレルギーを卒業できるお子様を増やせると考えています。
卵は理想的なタンパク源です。除去が必要な場合は動物性・植物性タンパク質で補いましょう。赤身の肉や魚(ヘム鉄も豊富)、大豆や乳製品を意識して摂取しましょう。卵黄には鉄も多いので、鉄分の摂取も大切です。調理面での置き換えは①起泡性→重曹、 ②凝固性(つなぎ)→豆腐+片栗粉、すりおろしたイモやレンコン、牛乳(豆乳)にひたしたパン粉(米パン粉)などを利用します。
基本的に除去の必要がないものとしては、鶏肉、魚卵、卵殻カルシウムです。逆に卵に含まれる塩化リゾチームが総合感冒薬、鎮咳薬、外用薬に含まれることがあるため、使用しないよう注意してください。