喘息とは
医療従事者の治療指針であるガイドラインには、気管支喘息とは、「気道の慢性炎症を特徴とし、発作性に起こる気道狭窄によって、咳嗽、呼気性喘鳴、呼吸困難を繰り返す疾患」
と、定義されています。気管支の慢性炎症ということがこの疾患のポイントです。炎症とは、赤く腫れることです。喘息の気管支では赤く腫れた状態が慢性的に持続しているのです。気管支鏡という肺のカメラで実際に、健康な方と喘息の方の気管支を観察した写真です。喘息の気管支が赤くなっていることがご理解いただけると思います。
そして、この気管支の炎症は症状がある時だけ起こっているのではなく、症状がない時も持続しています。気管支に炎症があると、気管支が敏感な状態になっています。気温の変化、運動による空気の出入りの増加により、気管支が収縮し、咳や呼吸困難を認めます。
気管支が敏感な状態ですので、発作を起こす原因も多岐にわたります。喘息はアレルギーの側面もありますが、非アレルギーの側面もあります。
喘息を引き起こす原因
このようにして、
・“繰り返す”、“長引く” 咳
・呼吸困難
などの典型的な喘息の症状が出現します。その症状が出やすいのは夕方~朝方の時間帯、運動のあとや風邪をひいたときなどの特徴があります。また、喘息には遺伝的な要素や他のアレルギー疾患を合併しやすい特徴があるので、両親や兄弟に喘息の方がいないか、アトピー性皮膚炎やアレルギー性鼻炎はないかなどをお尋ねします。喘息の発症には遺伝的な要因+ 環境の影響が関与しています。
聴診では、息をはく時に高い“ヒュー” という音がするのが特徴的です。ヒュー音がしないから喘息の調子はいい、ヒュー音がするから喘息の調子が悪いという判断をしていませんか?ヒュー音が聞こえる時には既に肺機能は大きく悪化しています。ヒュー音が聞こえる時は喘息がすごく悪い時です。
例外としては、乳児では気管支がまだ狭く柔らかいので、風邪をひいただけでも同じような音が聴取できることもあり、また成人ではタバコで傷んだ肺( 肺気腫) や心不全によって同様の音がします。ヒュー音を聴取するだけでは喘息と診断できませんが、喘息を示唆する重要な呼吸音です。
喘息がどのような病気かをさらに院長動画で深掘り!
喘息の検査
当院では肺機能検査( スパイロメトリー)、呼気中一酸化窒素濃度、呼吸抵抗検査、運動負荷試験、ピークフローの記録を実施しています。症状はある程度気管支の状態が悪くならないと自覚できないこと、症状と肺機能は必ずしも一致しないことなどから、各種呼吸機能検査を行い、気管支の状態の把握に努めています。豊富な検査手段を用いて、日本喘息学会喘息専門医である院長が診断を行ないます。
特に大事な3つの検査の説明を院長自ら動画で説明
肺機能検査(スパイロメトリー)
喘息の方が咳をしたり、呼吸が苦しくなり、ヒューヒューと音がするのはイラストのように気管支の壁がむくんだり、ギュッと縮むことにより空気の通り道である気管支の内腔が狭くなるからです。どれくらい狭くなっているかを目に見えるように数字や形で表すものが肺機能検査( スパイロメトリー) です。
下の肺機能検査の図は息をはくスピードを山の形にしたものです。平均の肺機能が緑の点線で表示されています。正常の肺機能のグラフは息のはき始めに山のピークがきて、そのあとは少し膨らみながら、またはまっすぐに減少していきます。軽度の気管支の収縮がある場合は、グラフがへこみます。更に気管支が収縮し、ゼェゼェと呼吸音がするような状態になると、グラフがさらにへこみ、グラフ自体も小さくなります。
スタッフによる測定のデモはこちらから
呼気中一酸化窒素濃度の測定
はいた息の成分から肺の中の炎症の成分( 一酸化窒素) を測定する検査です。10 秒間( お子さんは6 秒間) 一定の速さで息をはくと測定できます。無治療の喘息の方では高い値となり、治療により気管支の炎症が改善すると低下します。治療をしている方でも吸入薬を忘れることが多かったり、吸入方法が誤っていたりすると一酸化窒素の値は増加しますので、治療開始後は治療がきちんとできているかの評価ができます。
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呼吸抵抗測定
呼吸器専門の医療機関として、気管支内の抵抗( 狭さ) を測定できる機械も導入しております。こちらはリラックスして普通に呼吸を数回している間に測定できる検査です。検査結果も色で表現され、視覚的にわかりやすくなっています。気管支が狭いほど、色が濃く表示されます。成人の方は黄色までが正常値です。
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運動負荷試験
日常的に症状がない場合でも、運動に伴って咳や呼吸困難が出現することがあります。運動誘発喘息または運動誘発気管支収縮と呼ばれています。乾燥した寒い環境での息が上がるような運動を続けた場合に起こりやすくなります。例えば、冬場の持久走やサッカーが典型的です。本人や家族の方が認識していることも多くなく、無意識に運動を制限していたり、体力がないと思い込んでいることがあります。通常の診察で肺機能検査を行なっても、異常がないことが多いのですが、運動負荷試験を行うと肺機能の低下を認めます。運動負荷試験では、6 分間のランニングを行い、一定の間隔で肺機能を繰り返し測定します。実際の運動負荷試験の結果です。青色の折れ線が治療前の肺機能の推移です。運動終了5 分後に著明な肺機能の低下を認めました。咳がひどく、喘鳴も聞こえる状況でした。黄色の折れ線が後日実施した吸入などの治療開始後の運動負荷試験での肺機能の推移で、運動後の肺機能の低下が軽度となりました。
同じ検査の治療前の肺機能検査の結果です。普段は症状がないのですが、運動を行なった際に肺機能の低下が著明に起こることが、実際のグラフを見ると実感してもらえると思います。点線のグラフが平均値です。
ピークフローの記録
自宅で血圧を測定するかのように、“ピークフロー” という肺機能の一部をご自身でご自宅で測定できます。まず、ピークフローですが、肺機能検査で測定した山の形をしたグラフの頂点の高さを示します。すなわち、力一杯息をはいた時の、はいた息の最大速度のことです。
下のグラフは実際の患者様の記録です。朝夕、3回ずつ測定し、いい値を記録に残していきます。グラフにすると変化がわかりやすくなります。この患者様も症状が出現する前にピークフローの低下を認めるので、発作治療薬を早い段階から開始することができました。
重症度が高く、治療をしているにも関わらず、症状が不安定な場合はピークフローの記録をつけることを提案します。
当院の患者様の実際のピークフロー測定の様子です。
測定の具体的な説明は環境再生保全機構の動画をご参照ください。
当院オリジナルのソフトウェア
肺機能は時間経過での評価も重要です。当院が作成したソフトウェアで肺機能、呼気中一酸化窒素濃度、呼吸抵抗の推移を確認しています。気付きにくい徐々に悪化するタイプや、小児の方でしたら、きちんと肺機能が成長し治癒に向かっているかを確認しています。
アレルギーの検査
喘息のアレルギーとしての側面からのアプローチとして、血液検査や皮膚テストを行っています。グラフのようにアレルギーの喘息への関与は年齢とともに減少していきます。
小児の方の多くはダニへのアレルギーを認め、成人の重症の喘息の方の中には真菌へのアレルギーが生じていることがあります。花粉症を含むアレルギー性鼻炎は喘息の悪化に関与しています。診療の中で、喘息の悪化にアレルギーが関与している可能性がある時は、検査のご提案をします。日常的に気をつけることを知り、生活上の対策をしていただきます。
測定項目としてはダニ、動物、花粉、真菌、昆虫などです。一度の検査で13 項目までの測定が可能です( 医療保険で測定できるのは13 項目までです)。
喘息の当院における治療
まず、喘息の治療は大きく2 つに分かれます。発作治療薬と長期管理薬です。
イメージは次のようになります。咳や息のしづらさなどの症状が出ている時の気管支は真っ赤に腫れて、全体も収縮しています。それを症状のない状態まで改善するのが発作治療薬の役割です。一方、症状がなくとも喘息の気管支は、無治療や治療が不十分な時には、少し赤く腫れ、軽度の収縮を繰り返しています。気管支が敏感な状態となっているので、発作が起こりやすい状況です。毎日治療を行うことによって、正常の気管支を維持し、発作が起こらないようにするのが長期管理薬です。
「症状がでたときだけ治療するほうが簡単だ、発作治療薬だけがいい」、「長期管理薬は症状がない時も行うので、継続が難しい」など、思われるのは当然です。なぜ、発作治療薬だけで治療するといけないのでしょうか?まずは喘息治療の歴史からお話しします。次のグラフは日本における年間の喘息による死亡者数の推移です。1990 年後半までは年間6000 人もの方が喘息で亡くなっておられました。しかし、それ以降、年々死亡者数は低下し、2021 年には1038 人まで死亡者数は減少しています。1990 年代以前は、喘息は気管支が収縮する病気で、気管支を拡張させることが治療とされていました。咳や呼吸困難があれば、気管支拡張薬を吸入する、しかし、それが喘息の死亡者数を増やしているのではないかと報告があったのです。喘息の本態は気管支が赤く腫れた状態である炎症であり、それを改善するには日常的に吸入ステロイドなどを使用する長期管理薬が有効とされ、1990 年代後半から、吸入ステロイドの普及に伴い、喘息死は減少しました。
気管支を拡げるだけの治療ではなく、喘息の本態である炎症を沈静化する治療が必要です。
発作治療薬による症状が出た時だけの治療はやってはいけない治療です。
症状が出てから治療するのではなく、症状が出ないように毎日治療する必要がある理由の1 つに、気管支に炎症が持続することや気管支の収縮を繰り返すことで、気管支の構造が変化し、変化が起きた気管支は治療をしても改善しないということが挙げられます。
気管支喘息の治療~ 総論~
気管支の変化が起こることで、気管支はより狭く、より敏感になります。そして、この変化は治療しても改善しないのです。
このことを示した研究が下のグラフになります。3年間喘息の方の肺機能を追跡した研究で、その研究前1年間の発作の回数で、グラフを分けています。発作がなかった人に比べて、1 回でも発作があった人は肺機能の低下が大きくなっています。
今度は逆に、肺機能別の発作の起こる確率を示した研究です。グラフの右に行くほど、肺機能が低い方々になります。グラフが右に行くほど( 肺機能が低くなるにつれて)、発作が起こる確率が高くなっていきます。
以上のことから、咳や発作が起こると、気管支が厚く硬くなり、肺機能が低下する、すると、さらに咳や発作が起こりやすくなり・・・と、悪循環に陥ります。症状が出た時だけ治療するのではなく、症状が出ないように毎日の治療を継続することが大切です。
繰り返しになりますが、
発作治療薬による症状が出た時だけの治療はやってはいけない治療です。
気管支の構造変化がまだ起こっていない場合と、起こってしまった場合の治療開始前と後の肺機能を比較します。赤の線は平均の肺機能です。気管支の構造変化が起こってしまうと、治療を開始しても、肺機能が改善していないですね。どちらも小児の患者様です。
小児喘息にとって肺機能が大切な理由がもう1 つあります。小児喘息が治る可能性に最も影響するのが肺機能になります。下のグラフがそのことを示しています。横軸が肺機能です。左側にいくにつれて肺機能が低くなるのですが、縦軸の治る可能性が次第に低くなっています。しかも、治る可能性が50% に相当する肺機能でさえ、正常範囲内なのです。
以上の喘息症状と肺機能低下の関係について院長が解説しました。
喘息症状と肺機能低下
薬剤の役割について
気管支喘息の治療における標的は気管支の炎症と収縮になります。それぞれを狙う薬剤はこのようになります。
これに発作治療薬と長期管理薬の分類を加えるとこのようになります。
馴染みのある薬剤名は、
ロイコトリエン受容体拮抗薬:キプレス、モンテルカスト、オノン、プランルカスト
β2 刺激薬(短時間):メプチン( 吸入)
β2 刺激薬(長時間):内服はベラチン、ツロブテロール、メプチンなど、テープ剤はホクナリンテープ、ツロブテロールテープ などがあります。
発作治療薬について
ガイドラインによると、喘息の発作とは「アレルゲン暴露・気候変動・ウイルス感染により症状の発現、増悪を認めること」と記されており、その症状には「喘鳴、咳嗽、息苦しさ、痰の増加、動いた際の呼吸困難感」があります。「症状の程度もさまざま」とされていますので、軽度の症状の場合には、医療従事者によって発作の捉え方が異なるかもしれません。私の場合は、呼吸困難やゼェゼェがなくても、喘息としての咳の症状が一時的でなくある程度持続するのであれば、大きく発作と捉えて、発作治療薬を使用することがあります。
喘息のゼェゼェについてもう少し詳しく説明します。喘息ではない病気の時も、息をする度にゼェゼェすることはありますが、喘息のゼェゼェには特徴があります。それは息をはく時にゼェゼェまたはヒューヒューと音がします。胸より上、つまり喉や鼻では息を吸うときに空気の通り道は狭くなりますが、胸の中では息をはく時に空気の通り道が狭くなるからです。喘息の症状かどうかの判断の参考にしてみてください。
それでは、発作治療薬についてです。
気道の炎症を改善するステロイド、気道の収縮を改善するβ2 刺激薬があります。
下の図のように、発作の程度に関わらず、β2 刺激薬の吸入は行います。家庭でも医療機関でもこの点は同様です。内服や点滴のステロイドは医療機関を受診した際に、ある程度の発作になると、その程度に応じて処方・点滴されます。
以下当院で使用する薬剤を記載します。まずは症状の程度に関わらず吸入する気管支拡張薬ですが、粉薬を吸い込む形態のスイングヘラー、霧状の薬剤を優しく深く吸い込む形態のエアゾールがあります。
咳嗽や喘鳴がひどくなると深く吸うことができなくなるので、お持ちであればネブライザー吸入の方がきちんと肺の奥まで薬剤が行き届きます。当院ではメプチン吸入液とインタール吸入液を一緒に入れて、5分間吸入します。
薬剤を霧状にする原理の違いにより、メッシュ式とジェット式があり、特徴についてはこのようになります。
ーその他の方法ー
・SMART 療法(対象:15 歳以上)
長期管理薬で使用している吸入薬を発作治療薬としても使用できる吸入薬があります。先発品はシンムビコート®、ジェネリック医薬品ではブデホル® といいます。この吸入薬は1 日8回まで吸入できます。長期管理薬として、朝2吸入・夜2吸入を定期的にしている場合は、あと4吸入できますので、少し咳が増えてきた時に1 吸入ずつ追加することができます。
・短期追加療法(対象:15 歳未満)
長期管理薬を使用中に、風邪や季節の変化などにより生じた、発作までには至っていない軽い症状の時に短期間だけ気管支拡張薬を併用する治療法です。軽い症状とは、運動や泣いた後、朝方の一時的な咳、目が覚めない程度の夜間の咳などです。内服やテープ剤の気管支拡張薬を2週間以内の期間で併用します。2週間以上必要な時は、長期管理薬を強くする必要があります。
発作が起きた時の家庭での対応
まずは酸素化の低下が疑われる「強い喘息発作のサイン」がないかどうかを確認します。わかりやすいのは “寝る際に横になれるかどうか” です。横になれない時は、中発作以上の発作が起きていますので、直ちに医療機関を受診してください。「強い喘息発作のサイン」がない場合は、気管支拡張薬を吸入し、15 分後に効果判定を行い、その結果に応じてフローチャートのように対応します。個人的な意見としましては、気管支拡張薬を使うような発作があった際には、症状が改善していても、かかりつけ医を受診することをおすすめします。
内服ステロイドについて
ある程度の発作が起こると、気管支拡張薬の吸入に加えて、ステロイドの内服または点滴が必要になりますが、繰り返し行っていいわけではありません。年4 回以上、ステロイドを内服すると合併症が起こる可能性が、内服しない場合に比べると1.2 倍~1.4 倍増えてしまうという報告があります。下のグラフのような疾患の発生が増加すると言われています。
このようなことから、面倒ですが、日々の治療は内服ではなく、吸入薬となっています。吸入薬は主に肺に薬剤が分布するので、通常量では全身の副作用の心配はほとんどなくなります。内服ステロイドを使わなくていいように、長期管理薬の継続を頑張りましょう。
重症度がある程度高くなると、吸入薬を中心とした長期管理薬では発作が予防できなくなります。また、ステロイドが効きにくいタイプの喘息の方もいらっしゃいます。日常的・反復的なステロイドの内服・点滴を避けるため、注射剤である生物学的製剤があります。下の表のように現在は5 種類の薬剤が使用できます。
下の図のように、生物学的製剤は喘息の気管支で起きている免疫細胞のネットワークをそれぞれの製剤がそれぞれの部分をピンポイントでブロックします。薬剤のブロックポイントを色のついた四角で囲っています。四角の色は上の表の製剤名の色と同じです。生物学的製剤はピンポイントでブロックするから副作用が少なくなり、高い効果が得られます。しかし、デメリットが2 つあります。1 つは高額な薬剤ということです。1 ヶ月あたりの医療費が数万円になってきます。高額医療制度や付加給付などの医療費の助成制度も検討が必要です。もう1 点は、生物学製剤はピンポイントでのブロックなので、そのブロックしたネットワークがあまり重症化に関係ない時は効果がありません。検査結果や他のアレルギー疾患の合併などを考慮して薬剤の選択を行いますが、実際に高い効果が得られるかは投与しないとわかりません。もちろん、効果がある程度期待できる場合にご提案しています。
長期管理薬について
長期管理薬の種類と役割の表を再度まとめます。
喘息は慢性炎症が本態です。気管支の赤みを改善することが治療の基本なので、気道炎症を改善する薬剤は必須になってきます。
- 成人の治療について (15 歳以上) -
治療の強さがステップ1 から4までの4段階あります。いずれのステップにも吸入ステロイドを用いることが基本です。ステップによる主な違いは、吸入ステロイドの量と併用する薬剤の個数です。吸入ステロイドの量は低・中・高用量の3段階あります。治療ステップの選択は治療開始前の症状の程度を目安に選択します。以上をまとめたのが次の表です。ガイドラインでも治療の基本として掲載されています。
この方法はとてもわかりやすく、広く医療機関で行われています。しかし、症状の程度のみを参考にして治療内容を決めており、患者様の気管支で何が起きているかは考慮されていません。炎症が残っているのか?気管支の収縮が起こりやすいのか?痰が多くて苦しいのか?など、気管支の中で起こっていることは人それぞれ違います。治療がうまくいっていない方に対して治療を強くする際に、吸入ステロイドを増量するのか、併用薬を追加するのか・・・追加するならどの薬剤を併用するのかを適切に決めないといけません。そのためには、症状の具体的な内容を聴取し、肺機能検査を行い、気管支の状態を把握することと、薬剤が得意不得意とする症状を知っておくことが重要です。下のグラフは各薬剤のそれぞれの症状や病態への効果のあり・なしを示しています。
上記の薬剤で、吸入ステロイド、β2 刺激薬、抗コリン薬は吸入薬となっており、それらの複数の薬剤の組み合わせが1 つの吸入薬となった合剤もあります。例えば、次のようになっています。
薬剤の組み合わせは全てあるわけではありません。私が普段、15 歳以上の方に処方する薬剤をまとめてみました。合剤は吸入ステロイドとβ2 刺激薬がメインで、そこに3 剤目として、抗コリン薬が追加された3 剤含有の吸入薬が2 種類あります。吸入ステロイドと抗コリン薬の合剤はありません。
治療を始めたら、その治療がうまくいっているかの評価が定期的に必要です。発作が起きないことはとても重要なことです。しかし、発作がなければコントロール良好!としていいのでしょうか?コントロール状態の評価としてガイドラインでは下記のようになっています。
この表のコントロール良好に該当するように治療を調整しなければなりません。咳が週1 回以上ある、発作が年に1 回でも起こるなどある場合は治療の見直しが必要です。咳などの症状がない、肺機能が正常、喘息症状が出やすい場面( 運動時や悪天候の日) でも咳や発作がないことを全て満たすことを目指します。
しかし、吸入療法を中心とした治療を開始しても、咳や発作を認めることがあります。治療の強さが不十分ということもありますが、実際は治療の強さでなく、吸入薬の使い方が原因になっていることの方が多いのです。ある研究では、高用量の吸入ステロイドを使用していてもコントロールが不十分な方の中で、吸入することをよく忘れていた方が50.7%、吸入をしていてもやり方が間違っていた方が58.3% もいたのです。吸入をやり忘れる方とやり方が間違っていた方を合わせると、治療がうまくいってない方の80%を占めます(JACI 2015;135:896-902)。当院ではアレルギーエデュケーター、アレルギー疾患療養指導士、呼吸療法認定士といった専門の知識を持った看護師が在籍し、吸入薬の説明・練習や日々の生活指導も行います。
吸入方法のエッセンス
吸入は大きく2 種類に分類されます。ボンベを押すとスプレーのように霧状のお薬が出てくるpMDI 製剤と粉を吸い上げて吸入するDPI です。
いずれの吸入薬にも共通して大事なことは、吸い込み続ける時間と吸い込む強さです。吸い込み続ける時間は胸が大きく膨らむまで深く吸い込むということです。口の中から肺の中まで吸い込んだ空気と一緒にお薬が移動します。吸い込む時間が短いと喉や太い気管までしかお薬が届きません。肺の奥の細い気管支までお薬を届けるために深く長く吸い込みましょう。
吸い込む強さに関しては、弱すぎず強すぎず適度な強さで吸い込むことが重要です。吸い込む強さは、吸入薬ごとに異なり、練習器具がありますので、ご相談ください。強く吸い込みすぎるのがよくないことが下の図からわかります。黒い点が吸入薬から出てきた薬剤になります。適度な強さで吸い込むと肺の隅々にお薬が到達していますが、吸い込みが強すぎると肺の真ん中にしか薬剤が到達していません。吸い込む強さも大切です。
詳細な吸入のやり方については日本喘息学会の動画をご参考にされてください。
吸入薬の副作用について
1. 吸入ステロイド
通常量であれば、全身性の副作用の心配はほとんどないと言われています。口腔内や喉に起こる局所的な副作用に口腔カンジダ( カビ) と嗄声( 声枯れ) があります。吸入薬を薬局で受け取る際には、薬剤師から吸入後はうがいをするよう説明されるのは口腔カンジダを予防するためです。うがいをしっかり行なっても口腔カンジダを繰り返す場合や嗄声で困った時は以下の点にも気をつけてください。
・口腔カンジダの場合:寝る前に吸入していないか → 寝ている間に口腔内にステロイドが残存することがリスクですので、朝食後などに吸入する時間帯を変更しましょう。
・嗄声の場合:起床直後に吸入していないか → 乾燥した喉の状態で吸入すると声が枯れやすくなります。水分を摂ってから吸入するか、朝食後などの食後にしましょう。
また、どちらの副作用にも関連しますが、吸入薬を強く吸い込み過ぎてもいけません。必要以上に強く吸い込むことで、口腔内や喉に張り付く薬剤の量が増えてしまいます。薬剤ごとに適度な吸入の強さがあります。
2. β2 刺激薬
振戦( 手の震え)、動悸、筋痙縮( こむら返り):薬剤間での起こりやすさが異なりますので、まずはより副作用が起こりにくいβ2 刺激薬に変更します。
3. 抗コリン薬
口渇:まずは減量・中止を考えます。重症喘息の方で抗コリン薬を使用したいときは吸入補助具を用いた方法もあります。吸入補助具を使用すると口の中や喉への薬剤の沈着が少なくなります。吸入補助具を使わず吸入器から直接吸入すると40~60% の薬剤が口腔内や喉に残りますが、吸入補助具を使うとそれが10~25% に減少します。また、閉塞型の緑内障や排尿障害のある前立腺肥大症には使用できない薬剤ですが、開放型の緑内障や排尿障害のない前立腺肥大症の方には使用できます。
- 小児の治療について (14 歳以下) -
・成人とは違う小児喘息におけるポイント
①年に数回のみ軽度の症状を認める間欠型は長期管理薬を不要としています。季節の変わり目などに症状が出やすい場合は、1ヶ月間ロイコトリエン受容体拮抗薬を内服することも提案されます。
②症状が月1~3回の軽症持続型では、ロイコトリエン受容体拮抗薬と低用量の吸入ステロイドのどちらがいいかははっきりした報告がありません。ガイドラインでもそれぞれの患者様が続けやすい方を選択するようにと記載があります。
③症状が週1 回以上の中等症持続型以上になると、ロイコトリエン受容体拮抗薬よりも吸入ステロイドの効果が高いとされています。
5 歳以下と6 歳~14 歳の治療ステップです。
5歳以下と6歳以上での違いは、ステップ4 の追加治療に生物学的製剤が記載されていることです。おおよそ6 歳以下のお子様は、吸入薬を上手に吸入することはできませんので、吸入補助具を使用します。
治療を開始すると、その治療がうまくいっているかの評価をしていく必要がありますが、小児喘息ガイドラインでは1 ヶ月という期間で以下の項目を全て満たす必要があります。
① 運動や大笑い、泣いた後に一時的に認められる咳や喘鳴、夜間の咳き込みがない
② 発作がない
③ 夜間の覚醒、運動ができないなどの日常生活の制限がない
④ β2 刺激薬の使用がない
特に①は大事なポイントで、ご家庭でも日頃から運動時や夜の咳をしっかり観察してください。発作になる前のこのような初期症状のうちに治療の調整を行うことが大切です。肺機能検査ができない5歳以下のお子様は①の症状に注意しながら治療効果の判定を行うようにしています。吸入ステロイドに関しては小児特有の副作用があります。平均9歳の喘息患者300人以上が4年間吸入ステロイドを使用した臨床試験で、成人した時に、吸入ステロイドを使用しなかったグループよりも身長の伸びが1~2cm少なかったというものです(NEJM 2012;367:904-12.)。吸入ステロイドを使用することが心配になるかもしれませんが、別の報告では、喘息のお子様の4人に1人しか、成人以降の肺機能が正常ではないという報告があります(NEJM 2016;374:1842-52)。上述しましたように、肺機能の低下により小児喘息で治らず成人喘息として持続する可能性が高くなります。目の前のお子様の将来を見据えて、この吸入ステロイドのメリット・デメリットを天秤にかけて治療を検討することが重要です。
薬剤だけでなく、ダニやペット対策などの環境整備や受動喫煙の回避などもとても大切です。
治療に関しまして、ご希望やご不安がありましたら、いつでも院長・スタッフまでお伝えください。